激務といわれた監査法人の仕事【働き方改革の先にあるのは】

こんにちは。

 

電通で衝撃的な過労死が起きたのが2015年。

それから5年が経過し、日本全国で働き方改革が実行され、監査法人の繁忙期のようすも一変しました。

一昔前は、繁忙期は日付が変わっても帰れない日々が続いていましたが、今は厳格な残業管理が行われるようになり、そのような働き方をしている人を見かけなくなりました。

 

そんな私のプロフィールは以下のとおりです。

 

  • 90年代後半に第二次試験に合格し、大手監査法人に入所
  • 監査業務を中心にIPO支援、その他コンサルティング業務にも従事
  • バックオフィス系部署や地方事務所での勤務、大手監査法人間での転職も経験
  • ほぼ規定年数でシニアマネージャまで昇進

 

かつては激務と言われていた監査法人の仕事ですが、今はずいぶん変わったように見えます。

この変化は中で働く我々にとって喜ばしい変化なのでしょうか。

 

今日は監査法人の働き方改革について掘り下げてみたいと思います。

 

激務になっていった原因

監査法人の仕事は激務と言われるようになったのには、以下のような背景があったように思います。

まじめな人が多い

会計士になるためには会計士試験に合格しなければなりません。

合格率は高くなったといわれる現在でも10%程度で、多くの人はコツコツと努力を積み上げて試験に合格していきます。

そのような努力を積み上げることができた人たちが会計士になっているため、他の職業に比べてまじめな人の比率が相当程度高くなっているように思います。

 

不真面目な人間は激務には耐えられません。

でもまじめな人ほど、仕事を懸命にこなそうとします。

会計士は仕事を懸命にこなそうと思うあまり、知らず知らずのうちに働きすぎていたというのが、激務と言われた理由の一つだったのではないでしょうか。

終わりがない

監査には終わりがありません。

どれだけ手続きを尽くしても、監査の心証を高める余地はいくらでも存在します。

そのため最終責任を負うパートナーや現場の管理責任を負うインチャージの要求水準は高くなりがちです。

 

会計士はまじめな人が多いため、言われたことは一生懸命にこなそうと深夜まで働くことを厭いません。

それがたとえパートナーやインチャージが保身のために要求する事項であったとしても、懸命にこなそうと頑張ります。

これが監査法人の仕事が激務になっていった理由の一つだと思います。

報酬の算定方法

かつては標準報酬規定なるものが日本公認会計士協会から公表されていて、監査報酬はこれに従って算定された金額を得ていたことが多かったようです。

ところが平成15年にこれが廃止され、現在はタイムチャージ方式で報酬額を算定している監査法人がほとんどです。

 

タイムチャージ方式の下で監査報酬を増額させるには、単価を上げるか、時間数を増加させるしかありません。

ただ単価を上昇させるのは、クライアントの反感を買うことが多く、容易ではありません。

そのため報酬を増額させる手段として、時間数を増加させてきました。

時間数の増加は、監査の厳格化など比較的理由を説明しやすかったのです。

 

このように監査報酬を増額させるために時間数を増やしてきたのが、監査法人の仕事が激務になった原因の一つだったように思います。

長時間労働を是としてきた風潮

監査法人で働く公認会計士は経営者(パートナー)に雇われた従業員です。

にもかかわらず監査法人では昔から「公認会計士は専門家であり、専門家である以上は労働時間ではなく成果がすべて」と言われてきました。

 

従業員たる会計士自身がこのような気概でプライドを持って働く分には問題ありません。

でもかつては管理する側のパートナーたちの頭の中も、このような考えで支配されていたように思います。

結果、従業員たる部下の会計士たちの労働時間の管理を怠り、長時間労働を強要してきたことはまぎれもない事実だったように思います。

 

監査法人の仕事が激務になっていたのには、それなりの理由があった

一つ目の転換点(リーマンショック)

そんな長時間労働を強要してきた監査法人ですが、2008年に起きたリーマンショックを契機に転換期を迎えます。

 

米国で起こった金融危機を起因として、全世界に不況の波が押し寄せます。

我々の業界でも監査報酬の減額やIPOの激減など監査業務に関する収益が急速に悪化していきました。

当時の監査法人の経営層は、減少した収益を補おうとこれまでの方針を大きく変え、非監査業務の獲得に力を入れるようになりました。

 

当時この方針転換により現場は大混乱でした。

監査報酬は減額されていたものの、クライアント数自体は減少しておらず業務量は全く変わっていません。

にもかかわらず非監査業務の獲得を指示され、半強制的に非監査業務の営業に参加させられるようになったのでした。

 

また経営層は非監査業務をより強力に推進させるために、監査しかやらない会計士の評価を一気に下げ、営業のできない会計士に退職勧奨するなどして大規模なリストラを断行しました。

これにより多くの会計士たちの心が監査から離れてゆき、頑張っても評価されない監査業務で長時間労働する者はいなくなっていったのでした。

この頃は皆、問題を起こさない程度に早々に監査を終わらせ、事務所に戻って深夜まで非監査業務の提案書を必死に作っていました。

これが会計士の長時間労働に関する一つ目の転換期だったように思います。

 

リーマンショックは会計士の働き方が変わった一つ目の転換点だった

二つ目の転換点(東芝事件と電通事件)

各監査法人とも非監査業務の拡大を目指す中、業界を揺るがす大事件が起きました。

2015年に発覚した東芝の不正会計事件です。

 

東芝の不正会計を見逃していたEY新日本監査法人は世間から強く叩かれ、EY新日本監査法人は投資家からの信頼を失いました。

それだけではなくEY新日本監査法人のクライアントだった多くの企業が監査法人の変更に踏み切ったのでした。

不正会計の見逃しは、EY新日本監査法人だけで起こっていたわけではありません。

リーマンショック以降非監査業務の拡大に力を入れていた他の監査法人でも同様に不正会計の見逃しが多発しており、監査の信頼性が揺るぐ事態へと発展していきました。

 

このような中、監査への信頼を取り戻すべく、監査への原点回帰が行われることになったのでした。

 

また時を同じくして電通で起こった若い女性の痛ましい過労死をきっかけに日本全体に働き方改革が広がっていきます。

従来なら残業時間を増やすことによって監査の品質向上を実現していたはずですが、政府が強力に進める働き方改革の中にあっては、このような対応は許されません。

各法人とも強力な残業規制を敷き、時間管理を厳格化しました。

以前は月次あるいは半月毎に行っていた業務報告の頻度を高め、ほぼリアルタイムで残業時間を管理し、36協定を順守します。

また貸与パソコンをシンクライアント化し、一定時間以降のネットワークへの接続遮断で強制的に残業を排除する仕組みまで採用しています。

 

このようにして現在の監査法人では長時間労働を徹底的に排除するようになりました。

 

東芝事件と電通事件が会計士の働き方を変えた二つ目の転換点だった

働き方改革の先に未来はあるのか

各監査法人でのこれら働き方改革によって、スタッフやシニアスタッフは強力に守られるようになりました。

スタッフやシニアスタッフへ割り当てられる業務量は大幅に見直され、長時間労働することはなくなったように思います。

ではこれまでやってきた業務は、どこへ行ったのでしょうか。

 

法人全体の業務量を減らして、人員に見合った適切な業務量としたのでしょうか。

法人の売上高は減っていませんので、業務量は減っていないことは明らかです。

効率性を高めた?

 

本当でしょうか。

 

かつては特別な能力を持たない普通の会計士でもがむしゃらに働くことによって、パートナーになる道が残されていました。

でも現在のように、長時間労働によってカバーする道すら閉ざされてしまっては、もはや普通の能力しか持たない会計士はどうすればいいのでしょうか。

 

過剰な残業が減ってうれしいのは、シニアスタッフまでです。

マネージャになる頃には、このルールの中で成果を出すことが如何に難しいことなのか嫌というほど思い知ることになるでしょう。

 

このような働き方改革は、本当に我々従業員のためになっているのでしょうか。

 

働き方改革によって成果を出すのがより困難になっているのは見逃せない事実

 

まとめ

働き方改革によって、見た目の長時間労働はすっかり影を潜めています。

でも時間でカバーすることすら許されなくなった普通の能力しか持たない会計士たちは、これからどうやって監査法人で生き残っていけばよいのでしょうか。

 

監査法人でパートナーになれるのは、10人に1人と、選ばれた優秀な能力を持つ会計士だけです。

残りの9人はパートナーになることができず、いずれ監査法人の中で私のように居場所を失うことになってしまうのです。

 

このような新しい働き方の中で、普通の会計士が生き残るのはますます難しくなっていくのではないでしょうか。

 

私と同じように40代になって監査法人で苦しい立場に追い込まれたくなければ、転職市場での市場価値が高いうちに、自身のセカンドキャリアを真剣に考えるべきだと思います。

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