こんにちは。
「書いている人」@CPABlogです(プロフィールはこちら)。
先日、部門の名簿を見ていたのですが、私より社歴の長い人の数が随分少なくなっていることに気付きました。
私が所属する部門には全体で300名以上の人が所属しているのですが、私より社歴の長い人はパートナーを除くと20人ちょっとしかいませんでした。
私はシニアの頃に他の監査法人から転職してきたのですが、転職直後は全員が私より社歴の長い人たちということになります。
それから十数年、何百人もの新人たちが入所し、反対に何百人もの先輩たちが退職していった結果、気が付くと部門に所属する人たちの9割以上が入れ替わっていました。
このような現実を突きつけられると、私の番が迫っていること今更ながら思い知らされてしまいます。
これは私が所属する部門特有の状況ではなく、皆さんのところでも同じではないでしょうか。
資格を生かして独立開業したいと考える人もいるので、一般事業会社よりも離職率が高くなるとは思います。
でも定年まで監査法人で働きたいと考えている人もそれなりいるのにもかかわらず、ほとんどの人が監査法人を去っていくのはなぜなのでしょうか。
今日は監査法人の離職率が異常に高い点について掘り下げてみたいと思います。
みんないつかは辞めていく
監査法人を辞めていく人たちを見ていると、いくつかのタイミングが退職のきっかけになっていることが見て取れます。
第一波(修了考査直後)
監査法人で一定期間実務経験を積まなければ、公認会計士登録することができません。
そのため必要とされる実務経験を積む前に監査法人を退職していく人はほとんどいません。
反対に修了考査が終わった後は、一回目の退職の波がやってきます。
この波で同期のうち1割から2割程度の人たちが監査法人を退職していくのではないでしょうか。
このタイミングで辞めていく人たちは、個人事務所を開くために公認会計士の資格を取得したような人たちです。
監査法人で監査を続けていても独立開業のためのスキルは身につきません。
修了考査に合格し晴れて公認会計士になったタイミングで、独立開業のためのスキルを身に付けるために税理士法人や会計事務所に転職する人たちが多いのです。
あるいは監査という仕事や監査法人に幻滅した人たちもこのタイミングで辞めていきます。
今後監査の仕事はしないと決めた人でも、先々のことを考え修了考査だけは終わらせておく人がほとんどです。
このような人は修了考査が終わるまではひたすら我慢して、修了考査が終わった瞬間に監査法人を退職していきます。
第二波(入所7年目前後)
修了考査が終わっても他にやりたいことが特にないため、なんとなく監査法人に居残った人が次に退職を考えるのが入所7年目前後です。
マネージャになってすぐか、マネージャになる直前くらいだと思います。
この波の後には同期の半分以上がいなくなっているくらいではないでしょうか。
この頃にはいくつかの会社で主査を務めるようになっており、さまざまな調整に多くの時間を取られるようになります。
特に業績の悪い会社を担当していると、会社との調整が難航することも多く、如何に交渉をスムーズに進めるかについて頭を悩ますようになります。
またちょっとした判断ミスが後に意外と大きな問題に発展するなど、責任の大きさを実感するのもこの頃だと思います。
一方で監査については主査になって、これまで経験できなかった計画立案や意見形成なども実施するようになり、監査についてはやりきった感じが出てくる頃でもあります。
今まで気楽にやってきた仕事が急に息苦しく感じるようになる頃であり、監査についても「もういいか」と思えることもあり、次なるキャリアを求めて退職を考えるようになるのが、ちょうどこの頃です。
第三波(入所20年目前後)
監査法人に入所して7年目前後に訪れる第二波でも辞めなかった人は、その後しばらく監査法人に留まるケースが多いように思います。
残っている人の多くは順調に昇進も果たしており、今後の活躍も期待されている人たちということになるかと思います。
それだけにパートナーになることを夢見て、監査法人に残る道を選んだ人たちということだと思います。
でもこれらの中から実際にパートナーになれるのは特に優秀なほんの一握りの人たちです。
パートナーになれない多くの人たちは入所後20年になる頃には、居場所を失うことになり監査法人を去っていくことになります。
離職率が高い理由
監査法人を辞めていく理由はさまざまです。
でもたった20年足らずで入所した人の9割以上が辞めていくほど離職率が高いのはなぜなのでしょうか。
私は以下のようなことが原因になっていると思います。
- 独立志向の人が一定数存在する
- 他にも活躍の場がたくさんある
- 年次が上がるにつれてつならない仕事が増える
- 主査のポストには限りがある
- 旧主査に居場所はない
独立志向の人が一定数存在する
公認会計士の中には、初めから独立開業する目的で資格を取った人が一定数います。
このような人は必要な実務経験をクリアしたら、監査法人に長居することなく、次のスキル獲得を目指して税理士法人や会計事務所へ転職していきます。
そのため監査法人の離職率は他の一般事業会社に比べると高くなる傾向があるのだと思います。
他にも活躍の場がたくさんある
一般事業会社で特別なスキルを持たない者が思うような転職を実現するのは簡単なことではありません。
でも公認会計士の場合は、監査しかやってこなかったような人でも、監査や会計、管理などに精通しています。
そしてそのような者に対するニーズは世の中にたくさんあります。
公認会計士の資格が「つぶしが効く」資格だからこそ、監査法人での離職率が高い一因になっているように思います。
年次が上がるにつれてつまらない仕事が増える
年次が上がってくると増えてくるのが、各種の「調整」です。
- 繁忙期のアサイン調整
- チームメンバーへの指示
- 会計処理に関する事前調整
- 報告会やディスカッション等イベントの日程調整
- 発見した要修正事項の取り扱い
- 審査部門との事前調整
- パートナーへの根回し
ひどい時は各種調整を行っているだけで一日が終わることもあるくらいです。
調整力のある人は難なくこなしていくものですが、苦手な人は調整がうまくいかず困難な状況に陥ることもあります。
年次が上がれば上がるほど調整しなければならない事項が増えていき、仕事に対するモチベーションを下げてしまう一因になっています。
主査のポストには限りがある
私は監査の仕事にやりがいを感じていますので、もし監査の仕事を続けていけるなら、定年まで監査法人で働きたいと考えています。
でもパートナーになれない人は、いつまでも監査の仕事をやらせてもらえません。
なぜか。
それは主査という「経験の場」を後進に譲らなくてはならないからです。
昔のように右肩上がりで上場会社が増えていけば主査のポストも右肩上がりで増えていきますので、ポストの数が問題になることはありません。
しかしながら上場会社の数は思うようには増えないため、どうしてもポストが足りなくなってきます。
滞留しているマネージャやシニアマネージャが長年主査のポストを独占していると、若手の会計士たちの「経験の場」が奪われてしまいます。
これを避けるために滞留しているマネージャやシニアマネージャを監査から外して、若手会計士たちの経験の場を確保しているのですが、これまで監査中心でやってきたマネージャやシニアマネージャが監査以外の領域で活躍するのは簡単なことではありません。
監査以外の領域で成果を出せない者は、ますます法人での居場所を失ってしまい、その立場にいたたまれなくなり、ついには法人から去っていくことになってしまいます。
この構造的問題があるがゆえに、監査法人の離職率が異常に高くなっているのだと思います。
旧主査に居場所はない
これまで担当してきた会社の主査を外れると、以降その会社の監査に関係することはありません。
旧主査が監査チームに残っていると混乱の原因になってしまうからです。
これまで旧主査に使われてきたのに、新しく主査になったからといって、これまでの上司を反対に使うことにやりにくさを感じない人はいないでしょう。
旧主査だって後輩から使われることを「よし」としない人がほとんどです。
クライアントも会議室に旧主査と新主査がいればどちらに相談すればいいのか混乱してしまいます。
だからこれまで担当してきた会社の主査を外れると、以降その会社の監査に関係することはないのです。
このことが滞留したマネージャやシニアマネージャの居場所を奪い、監査法人から追い出す一因となっています。
まとめ
パートナーになれるのは同期の中で特に優秀な1割の人たちだけで、その他の9割の人はどれだけ頑張ってもパートナーになることはできません。
そしてパートナーになれなければ、いずれ監査法人から追い出されることになってしまいます。
あなたの周りに職員のまま定年まで勤めた人はいますか?
私はこれまでに職員のまま定年まで勤めあげた人を見たことがありませんが、それは皆さんもおなじではないでしょうか。
いずれ監査法人を去らなければならないようになるなら、自分が有利なうちに次にやりたいことを見つけるべきです。
会計士と言えど40代になると、一気に市場価値は低下してしまい転職に苦労することになってしまいます。
私のように惨めな思いをしなくてもいいように、若いうちにしっかり自身のセカンドキャリアについて考えることを強くお勧めします。
惨めな思いはしたくないと思った人は、こちらの記事もどうぞ。
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