こんにちは。
「書いている人」@CPABlogです(プロフィールはこちら)。
諸外国に比べてワクチン接種が遅れている日本ですが、コロナ禍の影響が直撃している航空、鉄道、旅行、外食、小売りといった業種での苦戦が目立ちます。
これらの中にはリストラを断行する企業も出てきており、連日希望退職を募集する企業のニュースが飛び込んできます。
この状況は2008年に起きたリーマンショックの時の状況と似ている部分があるように思います。
今、監査法人で働いている会計士の半数以上はリーマンショック後に入所された人だと思います。
その人たちはリーマンショックによって監査法人がどのような立場に立たされたのか知らない人も多いのではないでしょうか。
今回のコロナショックによって、監査法人がリーマンショックと同じような道を辿るのかどうかは分かりません。
でもこのタイミングでリーマンショック後に監査法人が置かれた状況について振り返っておくことには意味があると思います。
遅れて顕在化する影響
リーマンブラザーズが経営破綻したのが2008年9月15日で、その後連鎖的に世界的規模で金融危機が発生しました。
この影響を受けて9月12日には12,214円だった日経平均株価は、10月28日には6,000円台までなんと41%も急落しています。
アメリカ市場での混乱による需要減が各国経済へも波及したことが原因なのですが、この影響でトヨタ自動車が60年ぶりに営業赤字に陥ったくらい日本経済も深刻な影響を受けました。
当時、私も数社の上場会社のインチャージを務めていたのですが、急速な業績悪化に伴い、監査現場も大混乱でした。
有価証券評価をはじめとして、固定資産やのれんの減損、繰延税金資産の回収可能性など業績悪化に伴い見積関連の項目がことごとく引っ掛かり、その調整に忙殺される毎日でした。
でも本当に大変だったのは、この後のことだったのです。
混乱を極めた監査現場だったのですが会社には必要な処理を行ってもらい、決算自体は何とか乗り切ったのですが、翌年の監査報酬の交渉を行う段になって大幅な監査報酬の減額要請を受けたのです。
これには正直参りました。
業績悪化に伴い監査時間は激増しており減額どころか大幅な増額をお願いしたいくらいなのですが、生き残りを掛けて大規模なリストラに取り組んでいるクライアントは、報酬交渉でも一歩も引かず結果、大幅な減額となってしまったのです。
そしてこれは私が担当していたクライアントだけではなく、日本中で起こっていることでした。
監査時間の増加に伴い監査法人の人件費は大幅に増加しているにもかかわらず、監査業務での報酬減額が相次いだことから、監査法人の経営は一気に冷え込んでいきました。
そしてリーマンショック発生から2年後の2010年になり、大手監査法人に数百人規模のリストラの嵐が吹き荒れたのでした。
希望退職の募集
2010年以降の数年間で大手監査法人は次々にリストラに着手していったのですが、私が所属してた監査法人も例外ではありませんでした。
ある日突然、希望退職の募集が公表され全社員、職員一人一人に対して面談が実施されることになりました。
私も部門の担当のパートナーから会議室へ呼び出され、割増退職金や有給休暇の買い取り、転職支援制度などについて説明を受け、具体的に計算された退職金額を提示されました。
退職金は会社都合であり、かつ割増分も加算されていたことから、ちょっとびっくりするくらいの金額が書かれていたのを覚えています。
ただしこの時は「全職員対象に説明を行うことなっているから来てもらったが、お前は応じるな」と言われたので、退職金をもらうことはありませんでしたが、今なら真っ先に応募するように説得されるのでしょうね。
結果私の部門でも四十数名の社員、職員が早期退職に応じ、監査法人を辞めていくことになりました。
コロナショックの影響は?
リーマンショックは世界的な金融危機を引き起こし、全世界の需要を消し去ってしまったことから影響が長期化し、世界中が大混乱に陥ってしまいました。
これと比べコロナショックは感染拡大が収束しさえすれば、元通りになるという楽観的な見方がされることも多いようです。
でもコロナショックの影響が直撃している航空、鉄道、旅行、外食、小売りといった業界に属する企業では、リーマンショックの時と同じように監査報酬の値下げ圧力は確実に強まっていることでしょう。
またクライアントにとっては不要不急であることが多いコンサル業務も、当面は回復は難しいように思います。
2010年のような監査法人での大規模なリストラにまで発展するかどうかは分かりません。
でもクライアント構成が上記の業界に偏っている部門やコンサル業務の比重の高い部門などは、人員構成を再編するような動きが今後出てきてもおかしくはありません。
○○ショックは10年に一度
○○ショックと言われる経済危機は10年に一度くらいの頻度で起きると言われています。
2020年のコロナショック、2008年はリーマンショック、1997年のアジア通貨危機、1987年のブラックマンデー、1973年、79年のオイルショックなどがこれに当たります。
これらの経済危機が起きるたび、クライアントは痛めつけられ、そしてその影響は我々監査法人にも及ぶのです。
2010年に断行されたリストラほど大規模なものは、そうそう行われることはないかもしれません。
でも経済環境が厳しくなれば強制的な配置転換などは多数行われるようになります。
これまで監査しかやってこなかった会計士をコンサル業務へ強制的にアサインする、なんていうことは経済環境の変化に応じて頻繁に行われていることなのです。
でもいきなりコンサル業務に従事させられる本人は、大混乱必至です。
そして慣れない業務で神経をすり減らし、最後は耐えられなくなって退職に追い込まれる。
このような配置転換はマネジメントたちの常とう手段であり、ひっそりと行われる人員整理としても機能しているのです。
まとめ
2010年以降に監査法人に入所した若い会計士の皆さんの中には、現在の人手不足を考えれば監査法人でリストラなんかされるわけがないと思っている人も多いのかもしれません。
私もリーマンショックが起きるまでは、同じように思っていました。
今後、監査法人の経営がどのような道を辿るのかは分かりません。
でもぬくぬくと監査法人で働ける時代はとっくに終わっています。
こんな時代だからこそ、何が起こっても自らの力で切り開けることできるよう備えなければなりません。
AI技術が急速に発展する中、10年後の監査現場には判断を行う公認会計士のパートナーとデータ処理を行う無資格者しかいない残っておらず、大量の公認会計士がリストラされる世の中がやってくるかもしれません。
皆さんには、今のうちに監査法人からの出口戦略を考えておいてほしいと思います。
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