こんにちは。
「書いている人」@CPABlogです(プロフィールはこちら)。
8月15日付日経新聞の朝刊に以下のような記事が掲載されていました。
「監査大手、IPO業務の敬遠進む」(2020年8月15日付日本経済新聞電子版)
以前はIPOをたくさん手掛けるのもパートナーになるための一つの方法だったのですが、最近はこの方法でパートナーを目指すのが以前ほど簡単ではなくなっているように思います。
案件を受注するための所内の手続きが年々厳しくなっており、最近は受注させてもらえない案件も少なくありません。
このような流れの中、監査法人で働く我々はどのように立ち振る舞っていけばよいのでしょうか。
リスクの高いIPO業務
短期的に見ればIPO業務は手間がかかる儲からない業務です。
たいていのIPO準備会社は決算開示プロセスが脆弱で、適用される会計基準を理解している経理スタッフがいないことも珍しくありありません。
このような会社は必要な会計処理を適切に行えるわけがありません。
そこで助言指導機能を発揮して監査を通じて適正な決算へと導くわけですが、二重責任の原則がある中、ルール違反スレスレになることも少なくありません。
また決算開示プロセスのみならず販売や購買といった基本的な業務プロセスも未成熟である場合がほとんどです。
内部統制などないに等しく、売上や仕入、経費のカットオフや正確性、網羅性を誤るのが常態化している中では、従業員や経営者の不正だって簡単に起こりえます。
IPO準備会社の監査が非常にリスクの高い業務であるということは、経験者なら誰でも分かることだと思います。
レピュテーションリスクを恐れる監査法人
これまでは上場時に必要なのは直近2年間の財務諸表に対する監査報告書であり、内部統制監査を実施するわけではないので、内部統制が脆弱でも手間を惜しまなければ意見表明自体は可能とされてきました。
でもそもそも内部統制は監査を実施する際の「大前提」であり、内部統制がほとんど存在しないような会社の監査は、その「大前提」が崩れているのであって、たとえ精査を計画していたとしても監査を引き受けるべきではないのかもしれません。
上場まで辿り着ければその後継続して監査報酬を得られることから、かつては多くの監査法人で採算性やリスクを度外視してIPO業務を受注してきました。
でも数年前に上場直後に業績予想の下方修正を行うような「詐欺まがい」とも取れるような上場が相次ぎ社会問題化したことから、監査法人がIPO業務のレピュテーションリスクの高さに目を向けるようになったということなのでしょう。
業績予想そのものは監査対象ではありません。
もし「詐欺まがい」とも取れるような上場が行われたとき、一義的には引受審査を行った主幹事証券会社や公開審査を行った取引所が責任を負うべきなのでしょう。
でも繰延税金資産の回収可能性や固定資産減損、のれんの償却など将来計画を前提にした会計処理が存在する以上、適正意見を出した監査法人だって責任を一端を負担していると考えるべきです。
IPOは「旬」が何より大事です。
その企業が営んでいるビジネスの将来性を示す数字を作ることができる期間はそう長くはありません。
そのため株式公開を目指す経営者が、ビジネスが「旬」なうちに上場を果たしたいと考えるのはごく自然なことだと思います。
でも市場関係者が己の利益を優先して、無理な上場を後押しし、結果的に「詐欺まがい」の上場が行われるようなことが、許されるわけがありません。
まとめ
かつてはパートナーを目指す多くの会計士たちが傾倒していったIPO業務ですが、潮流が変わる中、以前よりもIPO業務で成果を出すのが難しくなっているように感じます。
玉石混交と言われるIPO企業の中で、真の成長企業を見極めることは簡単なことではありません。
それどころか「詐欺まがい」の上場に巻き込まれると、致命傷になることすら考えられます。
現状でパートナーを目指すなら、海外駐在で日系企業の現地法人相手にコンサル業務の営業で成果を上げるという方法の一択なのかもしれません。
もし監査法人でパートナーを目指すなら海外でコンサルの営業ができるくらいまで英語に磨きをかけておくのがいいと思います。
パートナーになれそうもない人は、少しでも若いうちに自身のセカンドキャリアについて真剣に考えるようにしてください。
下手に監査法人で長居してしまうと、私のように40代になってから困ることになってしまいます。
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