こんにちは。
「書いている人」@CPABlogです(プロフィールはこちら)。
新型コロナウィルスのせいで、株価の変動が大きくなっています。
日々の株価の変動が最近大きいのは、AIによる自動取引が原因のひとつだと言われています。
AIがSNSやマスメディアなどから垂れ流されるあらゆる情報を用いて株価のトレンドを予測しながら証券市場で自動売買をおこなっているため、株価の振れ幅が大きくなっているそうです。
AIといえば、イギリスのオックスフォード大学の准教授が94%の確率で我々会計士の仕事がAIによってなくなると予測しています。
本当にAIが我々の仕事を奪うことになるのでしょうか。
今回はAIが監査業界の及ぼす影響について、深堀してみたいと思います。
AI専門家による予言
イギリスのオックスフォード大学で働く准教授マイケル・A・オズボーン氏は2013年に「雇用の未来―コンピューター化によって仕事は失われるのか」という論文を公表しています。
この論文の中では既存職業の47%にあたる702業種の職業が、今後のAIの発達によって職を奪われてしまうとしています。
具体的には貨物運送業(99%)、銀行窓口係(98%)、レジ係(97%)、タクシードライバー(89%)などの職業が挙げられています(カッコ内は失われる確率)。
貨物運送業やタクシードライバーなどは、車の自動運転が実現されると確実に仕事がなくなりそうです。
レベル5の自動運転(完全自動運転)は2025年から2030年を目途に実用化を目指しているということなので、かなり現実味のある話に聞こえます。
また銀行窓口係やレジ係についても、とてもありそうな話に思います。
私が主に利用している金融機関は、ネットバンクでそもそも実店舗がなく、すでに失われているといっても過言ではありません。
またスーパーなどでもセルフレジが増えており、今後はカメラやセンサーを駆使することによってバーコードの読み取りすら不要となるレジなし店舗の増加により、レジ係の職は急速に失われていくでしょう。
また我々に関係する仕事として、
- Tax Preparers(99%):税務申告代行
- Bookkeeping, Accounting, and Auditing Clerks(98%):記帳、会計、監査事務
- Accountants and Auditors(94%):経理、監査人
などが挙げられています。
個人の確定申告については、現在でも「eTAX(国税電子申告・納税システム)」が普及しており、専門的知識がなくてもシステムの指示に従いながら入力を進めることによって、確定申告ができるようになっています。
記帳等については、家計簿ソフトの進化に見られるように、レシートや請求書などの証憑を画像で読み込むことによって自動で仕訳計上するようなクラウド型システムが、すでに存在しています。
これらのことを考えれば、論文の内容はそれなりに確度がありそうに思います。
では監査はどうでしょうか。
本当にマイケル・A・オズボーン准教授がいうように、監査人の仕事はAIにとって代わられる時代がくるのでしょうか。
AIに監査ができるのか
監査手続はリスク評価手続とリスク対応手続からなります。
リスク評価手続では、会社の事業内容や経営環境などを考慮してリスクを洗い出します。
そして洗い出したリスクについて運用評価手続や実証手続などのリスク対応手続を実施して心証を形成していくことになります。
リスク評価手続の多くは、AIが得意としそうです。
会社が属する業界や企業を取り巻く経営環境などの分析は、公表されている財務情報や非財務情報などのビックデータを利用してAIが分析することによって、リスク評価が可能です。
これまで監査人の経験に頼っていたリスク評価ですが、不正事例や考えうるリスクを事前に学習したAIなら人間以上に的確なリスク評価が実施できそうです。
また経営者や監査等委員とのディスカッションについては、AIが直接これらの人と意見を交わすのは想像が難しいのですが、AIが用意した質問等に経営者や監査等委員が回答するというスタイルなら可能でしょう。
内部統制や企業の理解についても、全世界のあらゆる業種の企業の内部統制やその他企業の情報からリスクを学んだAIなら、瞬時に監査先の理解は可能です。
情報を集めて分析し、リスクの高い領域を特定するというリスク評価手続の一連の作業は、膨大なデータとの比較を行えるAIが得意とするところではないでしょうか。
またリスク対応手続についてもAIが力を発揮しそうです。
そもそも人間がリスク対応手続を実施する場合は、能力的限界から試査が大前提となります。
ところがAIが実施する場合は、このような限界はありませんので、データさえあれば全件チェックも一瞬で実施することが可能です。
また見積りの監査においても、限られた経験に基づき判断する人間よりも、ビックデータに基づき判断するAIの方が、信頼性が高い判断が実施できそうです。
監査の局面を一つ一つ見ていくと、人間にしかできない手続はそう多くはありません。
むしろAIの方が圧倒的に優れている場面がほとんどのように思います。
このことを考えれば、AIがほとんどすべての手続を実施し、その結果を最終責任を負担するパートナーが確認し、意見形成することによって監査が終わっていく未来が見えてきます。
そしてアナログな情報をデータ化するためだけに、無資格者が数多く雇用され、安い給料で単純作業を行うことになるのでしょう。
このような未来には、パートナー以外の公認会計士が監査を行う余地はありません。
避けられない潮流
各監査法人では生き残りを掛けてAI監査の可能性を追求しています。
「あずさ、デジタル監査100人体制へ AIで不正検知も」(日本経済新聞記事)
「トーマツ、独自開発の人工知能「Deep ICR」を中核としたAI-OCRソリューションを提供開始」(Deloitteトーマツリリース)
「EY新日本、AIによる会計仕訳の異常検知技術の特許取得」(EY新日本リリース)
「あたら、AI監査目指すPwCあらた、3000人をデジタル人材に」(日本経済新聞記事)
けん引しているのは海外のメンバファームであることは間違いないのですが、日本も巻き込みつつ、AIによる監査の実現を目指して、日々研究開発を重ねています。
もしここで大きく遅れるようなことがあると致命傷になりかねないことから、各法人とも生き残りを掛けてAI技術の研究開発に取り組んでいます。
これは避けることができない潮流であり、その結果、近い将来に会計士の仕事をAIが奪うことになっていくのだと思います。
火消しに躍起になる協会
日本会計士協会は以下のような学生向けの動画を作成し、公認会計士の仕事がなくならないことを強調しています。
またサイト上に以下のような特設ページを作り、公認会計士の仕事が失われるという報道に関して情報発信しています。
マイケル・A・オズボーン准教授の論文で言われているように、会計士の仕事が本当にAIに奪われることになるのかどうかは、誰にも分かりません。
でもこれが事実だとすると、会計士を目指す学生はいなくなることでしょう。
AIに仕事を奪われるのが分かっていて、過酷な試験勉強する人はいません。
そして新たな会計士のなり手がいなくなれば、AI監査の実現までに監査制度が崩壊してしまいます。
だからこそ協会は、学生向けに動画を作ったりして、火消しに躍起になっているのだと思います。
まとめ
本当に会計士の仕事がAIに奪われることになるのかどうかは、誰にも分かりません。
マイケル・A・オズボーン准教授の予言は10年後を言っていたので、この記事の執筆時点からすると5年後ということになります。
さすがに5年後にAIが会計士の仕事を奪っているとは思いませんが、10年後、20年後はどうでしょうか。
AI技術は自動車業界を根底から揺るがせています。
近い将来実現が見込まれる自動運転技術によって、トヨタなど自動車メーカーはgoogleなどIT企業にとって代わられる可能性があります。
そのためトヨタは生き残りを掛けて巨額な投資を行い、自動運転技術の研究開発を行っています。
同じように業界を根底から揺るがせる事態が起きているにもかかわらず、我々は少し呑気すぎるのかもしれません。
会計士の価値って何なのでしょうか。
これまで監査が独占業務であることにかまけて、あぐらをかいていたのではないでしょうか。
これまでの私たちの仕事は、本当に年収に見合った仕事だったのでしょうか。
会社の会計データを入手して、おそまつな分析を実施し、監査をやった気になっている会計士のなんと多いことか。
経営を語れない会計士は、早晩駆逐されることになるのは仕方ないことなのかもしれません。
おそらく40代後半の私はAIの脅威から逃げ切ることができると思います。
でも30代以下の若い会計士の皆さんは、逃げ切ることはできません。
だからこそ、そうなる前に自分のキャリアを見直してほしいと思います。
私は頑張っていれば、監査法人で定年まで働けると勘違いして今になって苦しい立場に追い込まれています。
同じようにAIと共存できると勘違いして、20年後に職を失う人にならないでほしいと思います。
監査にすがる必要は全くありません。若いからこそ、変化を楽しんでほしいと思います。
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